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第2回コラム 「8020」で価値ある人生を

大久保満男
日本歯科医師会会長

平成21年10月30日(金)掲載


 人間は、生きるために食べ続けなければなりません。食べることは、われわれが生存するために絶対必要な日々の営みであります。言うまでもありませんが、この大切な営みを引き受ける場が口であり、歯であるのです。

 しかし人間は、調理という文化をつくることによって、生の肉や植物を食べる必要がなくなりました。それはすなわち、野生の動物が獲物を捕らえ、食べるための強力な武器である歯を失えば死を招くのに対し、人間は歯をなくしても食べ物を軟らかく調理することで生きていけるようになったことを意味します。

 さらには、歯科医療の発達が歯を失っても義歯で食べることを可能にしました。しかしこのような便利な生活を得た一方で、われわれは自分の健康な口と歯で食べることの大切さを、軽んじるようになってしまったのではないでしょうか。

 日本歯科医師会は、1989年から厚生省(現・厚生労働省)とともに、80歳の時点で20本の健康な歯を保ち、元気な人生を送ることを願って「8020運動」を展開してきました。乳歯が生え、永久歯に生えかわり、そして人生を終えるまでの期間を自分の歯で食べることを通して、健康の大切さを意識してもらうことがこの運動の趣旨だといえるでしょう。

 しかし同時に、この運動が不幸にして歯を失った人に何の関心も示さないものであってはならないと考えています。義歯を入れればきちんと食べられるようになります。そういう人にとっては、歯を失う不幸や不便さをしっかりと理解しながら人生を送ることに意味があると考えるべきではないでしょうか。つまり「8020運動」は歯を残すことを最終目的とするものではないのです。

 歯を残した人も、あるいは残せなかった人も、自分の人生を「食」や「会話」という生きる力の源を得ることで、自分なりに価値あるものとする。そしてそのことによって、生きがいのある人生を送っていただけるように願い祈る―。そこに「8020運動」の真の意義と意味があるのだと思っています。